緋色に近い何か
朝になった。
真っ先に愛する人のことを考えた。
泣いてなどいられない。
すぐさま人を外に誘った。
待ち合わせまでの時間、日比谷野音の音漏れを聴いた。
2年半ぶりの感覚に、体は震え上がった。血が沸いた。
手放してしまった時間を、今日は取り戻すのだ。
桜が咲いていた。
そろそろ待ち合わせの時間だ。
人と食べる甘いものはいい。
気を紛らわせてくれる。
今日は乗り切れる。そう思った。
野音だ。
赤い。あまりにも赤い。
長い時を経て帰ってきたこちらの世界。
今日この日にGEZANと向き合うのは、何かの奇跡だろうか。
赤い。
大地を震わす低音、体に突き刺さり脳天まで炸裂するファズ。
帰ってきたのだ。
あまりにも赤い。
赤すぎて、赤い。
破壊的な音に乗せられて届く歌詞が優しい。
誰かを思い出す。
気付いたら僕は泣いていた。
昨日堪えた分だろうか。
他に泣いている人などいないだろう。
あまりにも止まらない。
今ここに立っていること、歌詞を聞いて誰かを思い出せること、感謝できること。
ああ、ここは始まりだけど、終わってしまったものがあるんだ。実感が止まない。
素晴らしいステージだった。
生きていたいと思った。生きていなきゃと思った。
この場のこの感覚を誰かに共有したいと思った。
誰かがいないとダメなのかもしれないと思った。
それでも僕は結局独りなのだ。
心の奥底を見せられる相手は、みんないなくなってしまったのだ。
辛くてしょうがない。
大丈夫。きっとそれでも大丈夫。
確かな自信をもらった。輝いて輝いて、撃ち勝てばよいだけなのだ。
今は泣いてもよいのだ。時が経つのを待つのだ。
前向きな気持ちで泣いている。わかっているから大丈夫。
この愛も、記憶も、いつか完全なプラスになる時が来るのだ。
時が経つのを待つしかない。
頑張れ僕。もらった言葉を無駄にするな。
僕は確かに、前進した。
どうしても忘れない記憶よりも
どうしても忘れたくない記憶の方が多いから
今日もオレらの勝ちなんだ